バーであるお客様をお見かけしました。
　いつもは一人で来る男性なのですが、
　今日は、隣に女性が・・・妄想が始まりました。

　「いらっしゃいませ。お飲み物は？」
　「今日はちょっと待ち合わせなんだよ。
　　来るまでちょっと待っていいかな？」

　バーテンダーは、笑顔で「どうぞ」とおしぼりを差し出す。
　この近辺で会社を経営しているらしい。
　それ以外は、深くは知らない。通称"旦那"
　いつもは、ラフな格好をしているのに、
　今日は黒のスーツに、ノーネクタイ。
　結婚式かな？お葬式かな？
　と想像を膨らませながら、お連れのお客様を待つ。

　「早かったね。」
　「うん。」
　「あ、紹介しとくね。うちの妻。」
　「あ、どうもいつもお世話になっています。」

　一日の疲れをここで癒し、明日へとつなげているのだろうか
　バーにいるときは経営者としての一面はほとんど出ず
　お酒に、少々の会話・・・寡黙にお酒を楽しむ。
　バーテンダーは何も言わずに、酒を作る。
　経営者ともなるといろいろと苦労もあるだろう、
　ところが、今日は奥様と一緒だ。
　日常の極みというか、何か特別なことがあったに違いない。
　と、バーテンダーは想像を膨らませた。

　「こちらこそ、いつも主人がお世話になっています。」

　落ち着きのある大人の口調だった。

　「お食事はお済ですか？」
　「うん、シャンパンをふたつ。」
　「かしこまりました。」

　ものめずらしいのか奥様は、店内を見渡しながら、
　小声で何か話している。
　何を話しているかは聞こえない。
　ただ笑顔が見え隠れしているので、悪い話ではないのだろう。
　そして、シャンパンで乾杯。
　何かいいことでもあったのだろうか・・・

　「マスター」
　「はい？」
　「実は今日、下の娘が結婚したのよ。」
　「そうなんですか。おめでとうございます。」
　「で、もう父親母親の役目もだいぶ減るなと思ってね。
　　妻と来たわけ。」
　「なるほど。それでシャンパンなのですね。」
　「うん、これを機に、会社息子に譲ろうかと思ってね。
　　今まで会社のために生きてきたし、
　　残りは妻と楽しく過ごそうかなと。」
　「お疲れ様です。」

　いい人生だな。旦那もいい顔してる。
　奥さんもそんな旦那の一言に嬉しいだろう。恥ずかしそうに
　うつむきかげんに笑顔を見せる。

　「あなた何飲んでるの？」
　「ん？ラフロイグってモルトウィスキー。」
　「ちょっと飲ませて。」
　「いいけど、強いぞ？」
　「いいから！」

　と、半ば無理やりに、グラスを自分の手元に、そして一口。

　「おいしい！ウィスキーってこんな味だったっけ。
　　私・・・ウィスキー飲まず嫌いだったかも。」
　「マスター、私にも、何か美味しいウィスキーください。」
　「そうですね・・・じゃあマッカランでも飲んでみましょうか。」
　「何それ？」
　「スコッチのモルトウィスキーで数々の賞を受賞していることから、
　　モルト界のロールスロイスといわれているものです。」
　「じゃあそれで！」
　「かしこまりました！お飲み方は？」
　「じゃあ私もストレートで！」
　「おいおい、大丈夫か？」
　「いいじゃない。今日は夕飯の用意もしなくていいし。」

　（妄想終わり）

　

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